女房の妬くほど亭主もてもせず
女房はとかくやきもちを焼くが、亭主は女房が考えるほどもてることはないということ。
女房はとかくやきもちを焼くが、亭主は女房が考えるほどもてることはないということ。
ステラ (笑ふ) アマノ 笑つちやいけません。 ステラ 薪をくべませう。 アマノ (薪をストーブにくべながら)僕は、あなたの心臓に耳を当てて、微かな囁きを聞き漏すまいとしてゐます。 あなたの唇から漏れる吐息を……(ステラの傍に近づき) 胸一つぱい吸ひ込まうとしてゐます。 あなたは、それを感じておいでになる。それは、夢です。 さ、 その夢の先を見ませう。(ステラの傍に寄り添ひて腰をおろす) ステラ (やや声をふるはせて)をかしいわ。 アマノ をかしい…… をかしいと思ふから可笑しいんです。 子供の遊びを、大人が見てゐてはいけません。 (ステラの耳に口を寄せ)僕はあなたを愛してゐます…… 心の底から愛してゐます。 僕は、あなたの美しさに、魂を奪はれてゐる男です…… 月並だなあ…… 女房の妬くほど亭主もてもせず
あなたの恋人と、あなた…… 僕の恋人と、僕…… とが、今、ここにゐるわけです。 ステラ (笑ひながら)それから……? アマノ それからは、云はなくつてもおわかりでせう。 ステラ それぢや、飯事ね…… お芝居ね……。 アマノ 真剣なままごとです。 真剣なお芝居です。 さ、 あなたは、僕を愛してゐる……。 ステラ だつて……。 アマノ さうして置くんです。 ステラ あなたは、あたしを愛してるの? アマノ ええ……。 下手な経験よりは、合理的な想像の方がいいんですよ。 さ、かうして、 あなたの恋人が、あなたの足許に跪いてゐます(跪かない) 女房の妬くほど亭主もてもせず
このチロルの山奥で、お互に身の上話しさへしたことのない二人が…… 二度と再び会はないといふ誓ひを立てた上で、 久しく別れてゐた恋人のやうな一夜を明かして見たら…… どんなに、面白いでせう。(間) よう御座んすか…… あなたは、夢を見ておいでになる…… もう一人、夢を見てゐる男がゐる…… 二人の夢が、重なり合ふ…… ただ、それだけ……(間) 夢で遇つた二人が、夢で恋をする。 どうです…… さういふ恋を、一度、して見たいとは思ひませんか。 ステラ あたしは、一人で夢を見てゐる方がいいの。 アマノ あなたはあなたで、好きな夢を御覧なさい。 僕は僕で、好きな夢を見ます。 ステラ それで、どうするの。 アマノ あなたが愛していらつしやる男が、僕だとします。 ステラ あなたが愛しておいでになる女が、あたし……? アマノ 僕とあなたとではない…… 女房の妬くほど亭主もてもせず
今迄、かういふ機会がなかつたんです。 食事がすむと、あなたは、いつも人を避けて、読書と瞑想に耽つておいでになる。 此の食堂以外、僕は、あなたに近寄ることすら出来なかつたんです。(間) 今日は、最後の晩ぢやありませんか。 ステラ 最後の晩…… それも、空想の遊戯ね。 アマノ さうです…… その空想の遊戯を、もつと面白くする方法はありませんか……二人で……。 お断りして置きますが…… あしたの朝、あなたの馬車があの峠を越えたら、僕は永久にあなたの夢から消えてしまふ男です。 ステラ あなたは、真面目に、そんなことをおつしやるの。 アマノ さういふものぢやないでせうか。 旅人同志の心は、約束に縛られない友情で結びつけられるものです。 また握れるかどうか、わからない、さう思ひながら握る手に、旅らしい自由な力が籠るんぢやないでせうか……(間) 女房の妬くほど亭主もてもせず
アマノ あなたは、あなたの夢を生きておいでになる。 ステラ そんなら……一つの夢をね。 アマノ 思ひ出でせう……悲しい、華やかな……。 よくあるやつだ。 ステラ うれしさうね。 アマノ ちつとも……(真面目に) 僕が、やつぱり、さうなんです。 沈黙 ステラ さうおつしやるだらうと思つてゐました。 アマノ 云はなくつてもよかつたんです。 ステラ ぢや、何かもつと、ほかの話しをしませう。 アマノ ほかの話し……それもいいでせう。(間) あなたが、いつも読んでいらつしやる本……あれはなんです。 ステラ これ……? (手に持ちたる本を見せようとして、慌てて後ろへ隠し) なんでもいいぢやありませんか。 もう、あたしに、何んにも訊かないで頂戴、ね。 質問は、一切、受け附けないことよ。 アマノ それぢや、お話しができない。(間) 女房の妬くほど亭主もてもせず
ステラ 駄目よ、そんなことおつしやつたつて……。 アマノ (ステラに背を向けたまま)ヴエールを透して見るあなたの御眼は……物を言はない口のやうなものです。 あなたの眼の中には、きつと、僕が今迄知らなかつたものが、あるに違ひない。 ステラ もの好きね、あなたも……。 アマノ いけませんか……(間) あなたは、よく泣いておいでですね。 沈黙 ステラ ……。 アマノ あなたの涙は、夢から夢を伝はる涙でせう。 ステラ (溜息)あたしの夢……それは、どんな夢だか御存じ……。 アマノ (振り向いて)あなたの夢ですか……。 それは、現実のすべてを包む霧のやうな夢です。 あなたが、旅をなさる……それも、あなたに取つては、一つの夢…… 読書をなさる……それも夢……。 恋をなさる……それも一つの夢……。 ステラ 待つて頂戴……。 かうして、あなたとお話しをしてるのは……。 うそ……。 第一、あたしは生きてゐます。 女房の妬くほど亭主もてもせず
アマノ (笑つて答へない) ステラ ちつとも、お国の話をなさらないのね、あなたは。 アマノ あなたは……? ステラ 長崎つて、佳いとこでせう。 アマノ そんなことを聞いて、どうなさるんです。 ステラ どうもしないけれど……。 アマノ それより、あなたは、ほんたうは何処の方です。 ステラ さつき、なんておつしやつて? アマノ 僕がなぜ、それを知りたがるかつていふと、あなたは、ことさらに隠しておいでになるからです。 僕はあなたが、墺太利人であるよりも、伊太利人であることを望んでやしませんよ。 ステラ 知つてますわ。(間) それはどうだか、わかるもんですか。 ぢや、あてて御覧なさい。 アマノ あてますから、一度、あなたの御眼を拝見……(起ち上つて、ストーブのそばに行く) ステラ どうぞ……いくらでも……。 アマノ ヴエールをどけて……。 ステラ いけません、それは……。 アマノ それ御覧なさい……。 あなたも、そんなことが、お好きなんですね。 女房の妬くほど亭主もてもせず
早く行つておあげなさい。 ぢれつたがつてるわ、あなたの少尉さん……剣をがちやがちや云はせて……。 エリザ (もぢ/\して)たまにはいいのよ。 ステラ おや……今頃から。 エリザ (髪に手をあてながら、戸口に近づき)伯父さんが帰つて来たら、もう寝てるつて云つて頂戴ね。 アマノ 何処で……? エリザ (走り去りながら)いやな方。 アマノ 此の夏、或る独逸の士官に聞いたんですがね…… 戦争中、仏蘭西の田舎を占領してゐた先生たちの中隊が、いよいよ引上げるつていふ日、村ぢうの若い娘たちが、道ばたで、声を立てて泣いたつて云ひますからね。 ステラ いやな話ね。 アマノ さうか知ら……。 ステラ それに……(何か云はうとして急に口を噤む) アマノ あなたは、人間の情熱といふやうなものを、わりに、甘く見ておいでのやうですね。 ステラ わりに……ですか。 アマノ さうでせう。 ステラ あなたこそ、日本の方らしくないのね。 アマノ どうしたと云ふんです。 ステラ いいえ、何んでもないの……。 もつと、日本の話を聞かして下さらない。 女房の妬くほど亭主もてもせず
キーホルダーと言うと、幼いころから使っていたからか、なんだか古いイメージがあり敬遠していたのですが、最近では様々なブランドから販売されているんですね。 ブランドのバッグのお店では、「バッグチャーム」として、材質も革製やシルバー製など豊富に揃っています。もちろんバッグにつけるだけでなく、キーホルダーとしても使えます。形も女性らしいハートや花、動物をモチーフにしたものや、男性好みのシルバーチャームのものまで多くの商品から選ぶことができますね。それぞれネームも入れることができるサービスもあるようで、考えるだけでワクワクしてきます。 春は財布やバッグを新しく購入される方も多いと思いますが、新しいキーホルダーを使って、ぜひ自分だけのオリジナルの商品を作ってみましょう。 キーホルダー アクリル
機械の猛威を封じ、物量の優勢を挫くものは、仮に精神力といふ面から見ても、勇気だけではなく、それはより以上優秀な機械の創案及び利用を含み、かつ、一層根本的には、破毀と抵抗の巨大な夢を織り込んだ秘策善謀であつて、その力の源泉は、国民知能の結集、及びその最高水準の遺憾なき活用である。個人としてはもとより、国としても、道義はその推進たり、裏づけたるに止まること、そして月並な言葉で道義を説くことはこの際最も容易な業である所以をはつきりさせたい。 わが民族の鋭く豊かな知恵を、為政者の刻々の表情のなかに、満々たる自信をもつて読みとることだけを、今国民は、ひたすら希つてゐるのである。 女房の妬くほど亭主もてもせず
更に、敵の機械力乃至物量の問題であるが、前にも述べた通り、これと対抗すべきは、わが民族の霊妙な知能のはたらき以外のものではない。こゝは、国民の士気に関係する大事なところである。「今次の戦は、道義と機械との戦である」といふやうな論法で必勝の信念を鼓吹することは、戦意昂揚のために、現在では却て危険である。一見聖戦の意義を明快に伝へた如くであつて、実は、比喩にしても、表現に隙がある。考へ方が足りない。真の道義は絶対、かつ、永遠の勝利者であつて、道義そのものは肉体が滅んでもなほかつ厳然として存し、その意味では、機械との力くらべにはならず、時として、現実の戦での局部的勝敗と関係はないと考へるのが普通である。 女房の妬くほど亭主もてもせず
嘗て私は政治に文化性を与へよなどと説いたことがある。その意味は、人間の本性に基くおのづからな理想追及のすがたに、無関心であるか、或は無関心を装ふのが為政者の常だつたからである。そして、そのことには、概ね、逆なやうであるが、現実を正視し、これを適確にとらへる勇気と明察とを欠いでゐるのではないかと疑はせるやうな現象が付随する。政治には先づ説得力をと、私は云ひかへよう。 国民の戦意は、今こそ大に燃え立たねばならぬ。敵愾心は敵に向つて燃やすべきであり、味方同士がそれを口にし合つて満足すべきものではない。「敵愾心を振ひ起せ」などと、尤もなやうで無理な註文を繰返す代りに、国民の当然抱いてゐる敵愾心を、あくまでも正当化し、熾烈化する論拠と材料とを次ぎ次ぎに、余計な文句をつけずに示してほしい。敵である以上当然やるであらうやうなことを怪しからんなどといきり立つ必要は毛頭ない。米英ならではやらぬやうな老獪とガサツとの正体を整然と暴き、倶に天を戴かざる敵なることをとつくりと事実に即して語つてほしい。 女房の妬くほど亭主もてもせず
狭い意味の政治、即ち、政府の施策は、その施策の原因たり結果たる万般の事象を含めて、今や国力乃至戦力としての実質と見なさるべきものである。 軍事並に経済の面はしばらくおき、私がこゝで特に現在の政治に求めるものは、一にも二にも国民心理の把握といふことである。 国民の忠誠心のみはたしかに政治の拠りどころとなつてゐるけれども、それは国民の素質であつて、心理ではない。もつともつと「意気揚々として」国民悉くが政治について行けるやうにしてほしいものである。 そのためには、国民の我儘勝手に耳を藉さず、真に、ひそかに為政者に期待するところを、深く、早く見抜いて、そこに政治の高邁なすがたを示さなければならぬ。 女房の妬くほど亭主もてもせず
国民は当面の事態をもはやはつきり知つてゐる。最も大きな苦難が眼の前に迫つてゐることを自覚し、この苦難を切り抜けることが勝利の第一歩であることを、誰に云はれなくても肝に銘じてゐる。敵はやゝ図に乗つてゐるやうだがその弱点もほゞ察せられ、われは今、地の利に於て若干の失ふところはあつたが、敵の恃みとするいはゆる機械力、物量に対抗すべきわが民族の叡知を十分信じ、一人一人はまさに、国の活路を己れの死所として選ぶことを待ち望んでゐるのである。 国民の眼は悉く惨烈な孤島の戦場に注がれてゐるにもせよ、その耳は、絶えず何を聴かうとしてゐるか? 為政者の声である。責任ある当局の言明である。それは自ら道を迷はざらんがためでもあるが同時にまた、国政の運用が何よりも臣子としての重大関心事たらざるを得ないからである。 女房の妬くほど亭主もてもせず
勿論、彼等は、ブウルヴァアル俳優たるに甘んじなければなるまい。然し、それは彼等の恥辱ではない。寧ろ、現代の観衆は、現代的なブウルヴァアル俳優を求めてゐる。彼等はジャック・コポオを求めてはゐない。ピエエル・マニエを求めてゐるのである。アンドレ・ブリュレを求めてゐるのである。イヴォンヌ・プランタンを求めてゐるのである。 さて、私がなぜこんなことを云ひ出したかといへば、私が、所謂新派劇の舞台なるものを観て、「なるほど、これが新派だな」と思つた部分は、俳優の「心がけ」一つで、どうにでも変へられるものらしく思はれたからである。そして、所謂新派俳優の強味は、「新派臭からざる部分」に於て、意外にも私の眼を惹いたからである。(一九二九・三) 女房の妬くほど亭主もてもせず
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