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四月の後、嘗つて
「四月の後、嘗つて老人の坐つた座蒲団には公然と子供等の父なる若者が坐るやうになつた。其背後の半間の間には羽織袴でキチンと坐つた老人の四つ切りの写真が額に入つて立つて居る……」 この題材は、もし自然派系の作家が扱ったならば、どんなに皮肉に描き出しただろう。老人がどんなにいたましく嘲笑されただろう。が、志賀氏はかかる皮肉な題材を描きながら、老人に対しても妾に対しても充分な愛撫を与えている。「老人」を読んだ人は老人にも同情し、妾をも尤もだと思い、その中の何人にも人間らしい親しみを感ぜずにはいられないだろう。情夫の子を、老人の子として、老人の遺産で養って行こうとする妾にも、我等は何らの不快も感じない。もし、自然派系の作家が扱ったならば、この題材はむしろ読者に必ずある不快な人生の一角を示したであろう。が、志賀氏の「老人」の世界は、何処までも人間的な世界である。そして、我々は老後の淋しさにも、妾の心持にも限りなく引付けられるのである。氏の作品の根柢に横たわるヒューマニスチックな温味は「和解」にも「清兵衛と瓢箪」にも「出来事」にも「大津順吉」などにもある。他の心理を描いた作品にも充分見出されると思う。 女房の妬くほど亭主もてもせず
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NYOUBOU — 女房の妬くほど亭主もてもせず
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