喜蔵 矢立の筆は、一本しかねえぞ。なるべく早く書いて回してくれ。書いたやつは、小さく折って、この割籠の中に入れてくれ。 忠次 札の多い者から三人だぜ。 十蔵 ええ承知しました。 喜蔵 十蔵、お前からかけ! (十蔵に筆を渡す。めいめいつぎつぎ筆を借りて書く。弥助書き終え九郎助に近よりて) 弥助 そら兄い、筆をやるぜ。 (弥助、約束したるごとくにっこり笑う) 九郎助 ありがてえ。 (九郎助筆を取る。煩悩の情ありありと顔に浮かび、しばらく考え込む) 女房の妬くほど亭主もてもせず
喜蔵 矢立の筆は、一本しかねえぞ。なるべく早く書いて回してくれ。書いたやつは、小さく折って、この割籠の中に入れてくれ。 忠次 札の多い者から三人だぜ。 十蔵 ええ承知しました。 喜蔵 十蔵、お前からかけ! (十蔵に筆を渡す。めいめいつぎつぎ筆を借りて書く。弥助書き終え九郎助に近よりて) 弥助 そら兄い、筆をやるぜ。 (弥助、約束したるごとくにっこり笑う) 九郎助 ありがてえ。 (九郎助筆を取る。煩悩の情ありありと顔に浮かび、しばらく考え込む) 女房の妬くほど亭主もてもせず